目次
H2-1. 『爆上戦隊ブンブンジャー』という企画──「車」を令和にアップデートする
2024年3月3日から2025年2月にかけて放送された『爆上戦隊ブンブンジャー』は、スーパー戦隊シリーズ第48作として、長い歴史を持つ「車」というモチーフに新たな生命を吹き込んだ記念碑的な作品です。本作が提示した「自分のハンドルは自分で握る」という哲学的命題は、単なるヒーローのキャッチフレーズを超え、情報過多かつ不確実な現代社会における個人の自律性とプロフェッショナリズムの在り方を鋭く問いかけました。
H3-1-1. なぜ令和にまた〈車戦隊〉なのか
スーパー戦隊シリーズにおいて「車」は、『激走戦隊カーレンジャー』(1996年)、『炎神戦隊ゴーオンジャー』(2008年)といった先行作品が存在する、ある意味で「既出」のモチーフです。それでも制作陣があえて令和の時代に車戦隊を企画した理由は、車の概念そのものを根本的に再定義することにありました。
従来の車戦隊が「スピード」「レース」「道路」といったイメージに寄っていたのに対し、ブンブンジャーは「物流」「仕事」「依頼人の想いを運ぶ」といったベクトルにシフトしています。これは、コロナ禍を経て重要性が可視化された「エッセンシャルワーカー」としての配送業や、個人の創造性を重視する「メイカームーブメント」といった現代的な文脈を反映したものです。
主人公・範道大也(演:井内悠陽)の職業設定において注目すべきは、当初検討されたとされる「運び屋」から「届け屋」への昇華です。この変更は単なる言葉の言い換えではなく、物理的な輸送を超えた「想いの媒介」という付加価値を強調するものでした。
H3-1-2. 「つくる」と「届ける」が一体化したヒーロー像
ブンブンジャーの最大の特徴は、車で「運ぶ」だけでなく、その車や装備そのものを自分たちで開発・改造する点にあります。大也は巨大ガレージ「ブンブンガレージ」を拠点とするエンジニアであり、機械生命体ブンドリオ・ブンデラス(声:松本梨香)とともに、ブンブンカーや武器、ロボのシステムを「つくる」人物として描かれています。
この設定により、本作のヒーロー像は従来の「与えられた力を使う戦士」から、「必要な道具を自ら創造し、それを使いこなすプロフェッショナル」へと進化しました。ここには、「自分が使う道具は自分で理解し、責任を持って扱う」というメッセージが込められています。
H3-1-3. 「バクアゲ」に込められた能動的価値転換の思想
タイトルにも冠されている「バクアゲ(爆上)」という言葉は、単なるテンションの高揚を指すものではありません。それは困難な状況を自らの技術と意志で突破し、状況を能動的に好転させるプロセスそのものを象徴しています。
「自分のハンドルは自分で握る」というテーマは、他者に人生の決定権を委ねず、自らの意志で方向性を選択する「自律性」のメタファーとして機能します。アルゴリズムや他者の評価によって行動が規定されがちな現代のデジタル社会に対する、極めて批評的なメッセージがここに込められているのです。
H2-2. プロフェッショナル集団としてのブンブンジャー──「〜屋」たちの戦隊
H3-2-1. 範道大也──技術・知略型リーダーの新しさ
ブンレッド・範道大也は、従来の戦隊レッドに多い「直感型」「熱血型」とは一線を画す「技術・知略型」のリーダーです。彼は莫大な資産と開発技術を持つエンジニアでありながら、独裁者ではありません。メンバーの専門性を誰よりも尊重し、「惚れた」という言葉で彼らの自律性に敬意を表します。
大也が他者に向かって発する「惚れた」という表現は、単なる恋愛的な意味ではなく、「その人の仕事ぶり・技術・意志に惚れ込んだ」というニュアンスです。ここに、スキルと自律性をセットで評価する現代的な人間観が見て取れます。
H3-2-2. 六人のプロフェッショナル──それぞれの自律と成長
ブンブンジャーのメンバーは、それぞれが「〜屋」という屋号を持つプロフェッショナル集団として描かれています。
鳴田射士郎(情報屋/ブンブルー:葉山侑樹)は、大也の最も古い仲間でありながら、盲目的な従属関係ではない自律的なセカンドポジションを保ちます。彼は大也の掲げる理想に自らの意志で同乗しており、信頼するリーダーのためであっても自分の信念を曲げない高い自律性を示します。
志布戸未来(運転屋/ブンピンク:鈴木美羽)は、第1話において自らの意志を無視して結婚を強要しようとする元カレからの逃走をきっかけに、自分の人生のハンドルを握り直す決意を固めました。彼女の超人的な運転技術は、単なるテクニックの誇示ではなく、「自分の進路を自分で切り拓く力」の比喩として機能しています。
阿久瀬錠(警察屋/ブンオレンジ:齋藤璃佑)は、「市民を守る」という純粋な警察官の義務感からスタートしつつ、法の枠組みを超えた「個の意志による正義」の重要性を学び、真のヒーローへと脱皮していきます。
振騎玄蕃(調達屋/ブンブラック:相馬理)は、飄々とした外見の下に重い過去を秘めています。彼の「お困りのようだねえ」という口癖は、かつて助けを求めた時に誰も手を差し伸べてくれなかった自分自身の裏返しとして解釈できます。
焔先斗(始末屋/ブンバイオレット:宮澤佑)は、追加戦士として登場し、当初は利己的な行動をとりますが、相棒ビュン・ディーゼルとの絆や大也たちの「バクアゲ」な生き方に触れることで、最終的に地球を守る道を選択します。
H3-2-3. 対等な契約から信頼関係へのチームビルディング
本作の作劇上の大きな特徴は、古典的な映画技法である「グランドホテル形式」を意識した構成にあります。特定の絶対的な主役が物語を牽引するのではなく、異なる背景や専門性を持つ複数の登場人物がそれぞれの目的を持って動き、それらが交錯することで大きな物語が形成されます。
ブンブンジャーのメンバーは、リーダーである大也との「契約」に基づいた対等なプロフェッショナル集団として描かれており、各々が専門領域における矜持と責任を担っています。この設定は、フリーランスや業務委託といった現代の多様な働き方を反映したものと言えるでしょう。
H2-3. 敵組織ハシリヤンが映す、搾取と支配の構造
H3-3-1. 悲鳴=エネルギーという設定の社会批評性
本作の敵組織「大宇宙侵略大走力団ハシリヤン」は、人々から発せられる悲鳴という恐怖のエネルギー「ギャーソリン」を収集する組織です。この設定は、他者の精神的な苦痛をエネルギーへと変換し、搾取することで拡大する組織の暗喩であり、現代社会における構造的な暴力やハラスメントを風刺する側面を持っています。
ハシリヤンが送り込む怪人「苦魔獣(くるまじゅう)」は、日常的な物品にハシリヤンの技術(ネジ)を融合させることで誕生します。これは、身近なものが突如として自分を襲う暴力へと変貌する恐怖を描いており、日常の中に潜む危険という現代的な不安を表現しています。
H3-3-2. サンシーターに見る中間管理職的悲哀
「サンシーター」と呼ばれるデコトラーデ(声:諏訪部順一)、イターシャ(声:水樹奈々)、ヤイヤイ・ヤルカー(声:諸星すみれ)の3人は、悪役ながらもどこか愛嬌のある、コミカルな立ち回りを見せます。彼らは組織の末端で苦労し、時に仲間割れをしながらも、自分たちの居場所をハシリヤンの中に見出そうとする悲哀を背負っています。
サンシーターの描写は、上層部に振り回される「中間管理職的悪役」として、使われる側の仕事論を体現しています。彼らは「ハンドルを握っているつもりで、実は握らされている側」のモデルケースとして機能しているのです。
H3-3-3. 絶対的支配者スピンドーとの思想的対決
首領ワルイド・スピンドー(声:遊佐浩二)は、圧倒的なカリスマ性と残酷さを備えた絶対的な支配者として描かれました。彼は「他者のハンドルを奪い、自分のために回させる」ことの極致を体現しており、大也たちの「自律」というテーマに対する最大の障壁として立ちはだかります。
スピンドーと大也の対立は、単なる善悪の戦いではなく、「自律」と「支配」という二つの思想の衝突として描かれています。最終決戦においてスピンドーは最期まで自らの支配欲と誇りを貫き、悪役としての美学を示しました。
H2-4. 「自分のハンドルは自分で握る」の物語化
H3-4-1. テーマの三層構造:自律・職業観・契約と信頼
『爆上戦隊ブンブンジャー』が扱う主なテーマは、以下の三つに集約できます。
1. 自律(オートノミー): 他人やシステムに行動を決められず、自分で選択し続けること
2. 職業観(プロフェッショナリズム): 能力を磨き、それを責任とともに引き受ける「〜屋」であること
3. 契約と信頼: 「惚れた」相手と結ぶのは、主従関係ではなく、対等な仕事仲間としての契約であること
表1:ブンブンジャーにおける「自律」の構造分析
| テーマ | 物語上の具体描写 | 観客に起こる変化・受け取り(想定) |
|---|---|---|
| 自律 | 未来が元カレからの結婚強要を拒絶し逃げ出す/錠が警察組織の論理と自分の正義の間で悩む | 「嫌なことを嫌と言っていい」「肩書きに頼らず、自分で判断していい」という感覚 |
| 職業観 | 各メンバーが自分の「〜屋」としてのスキルを自覚し、責任を持って任務を遂行する | 「好きなこと」「得意なこと」を仕事として自覚するイメージが持ちやすくなる |
| 契約と信頼 | 大也が仲間をスカウトする際、必ず相手の意志確認を行い、「乗るかどうか」を選ばせる | 「ついていく/組む」のは強制ではなく、自分の決断でいいのだ、という感覚 |
H3-4-2. 「ハンドルを握り直す」決定的瞬間の分析
各キャラクターには、物語の中で「自分のハンドルを握り直す」象徴的な瞬間が用意されています。
未来にとっては第1話の逃走シーンがそれに当たります。これは一見すると受動的な「逃げ」に見えますが、実際には自分の意志に反する状況からの能動的な脱出でした。
射士郎の場合、敵幹部グランツ・リスクとの対峙において、「ボスの言いなりになり思考を放棄した者」と「自らのハンドルを握り続ける者」の対比が描かれました。射士郎は信頼する相手でも、自分で考えてついていくことの重要性を示したのです。
H3-4-3. 最終回とBGB──それぞれの道を選ぶ意味
物語の結末において、ブンブンジャーのメンバーは二つの道に分かれます。大也、射士郎、未来、錠、玄蕃の5人は、地球という枠を超え、宇宙中の困っている人々に希望を届けるための組織「BGB(Big Group Boonboom)」として旅立ちます。
一方、焔先斗はビュン・ディーゼルと共に地球に残り、かつて自分が救われたかった「孤独な子供たちの悲鳴」に駆けつけるヒーローとして活動を継続する道を選択します。
この結末は、チームとしての絆を保ちつつも、個々の意志(ハンドル)を尊重するという、本作のテーマを完璧な形で具現化したものです。真の絆とは、物理的な距離に関係なく、互いの選択を尊重し合うことで成立するものであることを示しています。
H2-5. 触覚的な「つくる」体験──玩具戦略と演出の革新
H3-5-1. スプリング変形が生む「自分で組み立てる」カタルシス
本作の主力ロボ玩具「DXブンブンジャーロボ」は、核となるブンブントレーラーが「ゲートモード」へと変形するギミックを最大の特徴としています。トレーラーの後部を展開してゲートを形成し、そこにブンブンカーをセットしてレールを押し込むことで、スプリングによる「瞬間変形」が発動します。
この一連のプロセスは、単にロボットを組み立てるだけでなく、劇中の大也が行う「チューンアップ」や「発進シークエンス」を子供たちが自らの手で再現できる「体験型」の玩具としての側面が強く打ち出されています。
デジタルゲームでは画面をタップするだけで完結する変形や合体のプロセスを、物理的なギミックとして実装することで、子供たちは自分の手で何かを「つくる」「動かす」という原初的な喜びを体験できます。
H3-5-2. 車種選択システムと「操作する」感覚の重要性
変身アイテム「DXブンブンチェンジャー」には、ブンブンカーごとの認識ピンを読み取る機構が採用されています。車両に刻まれた物理ピンを差し込むことで、車両ごとの固有音声や必殺技ボイスが発動する仕組みです。
これは単なるコレクション要素にとどまらず、「どの車をどのタイミングで選んで使うか」を子ども自身に委ねるインタラクションになっています。「今日はこの車で変身しよう」「この組み合わせでロボを組んでみよう」といった試行錯誤は、作品テーマである「自分でハンドルを握る」感覚と自然に接続していきます。
表2:車モチーフ戦隊シリーズの比較分析
| 作品名 | 放送年 | 車の扱い | ヒーローの立場 | 本作との差異 |
|---|---|---|---|---|
| 激走戦隊カーレンジャー | 1996年 | 一般車が地球を救う「正義の車」化 | 「選ばれし5人」だがかなり庶民的 | パロディ色が強く、シリアスなテーマ性は薄い |
| 炎神戦隊ゴーオンジャー | 2008年 | 意志を持つ炎神(車)が相棒として登場 | ドライバーとして炎神とタッグを組む | 環境問題がテーマ、職業性は薄い |
| 爆上戦隊ブンブンジャー | 2024年 | 車は自分たちで開発・チューンする「仕事の道具」 | 自ら名乗る「〜屋」のプロ集団 | 「車=仕事道具」という現代的な位置づけ |
H3-5-3. 演出面での「手触り」への回帰
制作面においても、本作は「つくる」ことへのこだわりを貫いた作品でした。メイン監督の中澤祥次郎と特撮監督の佛田洋は、CG技術が発達した現代において、あえてミニチュアワークや実車を用いたアクションを多用しました。
特に巨大ロボ戦において、実物のミニチュアを用いた撮影の質感を大切にしながらも、CGによる補強を適切に組み合わせることで、画面越しにも「重み」や「衝撃」が伝わるような実在感を実現しています。
H2-6. シリーズ50周年への架け橋としての意義
H3-6-1. 令和戦隊のトレンドと本作の革新性
近年のスーパー戦隊シリーズを振り返ると、『機界戦隊ゼンカイジャー』(2021年)のメタ構造、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)の現代都市生活者の悩み、『王様戦隊キングオージャー』(2023年)の政治劇など、「戦隊=正義の味方」という直球の図式よりも、それぞれの戦士が異なる立場・仕事・価値観を持った「集団劇」としての色が強まっていました。
この流れを踏まえると、ブンブンジャーが「〜屋」という職能でヒーローを定義したのは、ごく自然な延長線上にあります。令和らしい「働くヒーローの群像劇」に着地したのが本作の位置づけと言えるでしょう。
H3-6-2. 50周年記念作品への橋渡し機能
スーパー戦隊シリーズは、1975年の『秘密戦隊ゴレンジャー』から数え、2025年に50周年を迎えます。ブンブンジャーはその直前=第48作というポジションにあり、「50周年記念作への橋渡し」として重要な役割を担いました。
本作は、シリーズの伝統的モチーフである「車」を再提示し、働くヒーロー像をアップデートして、次の節目にふさわしい価値観を提示することに成功しています。
H3-6-3. 特撮文化における「自律」思想の継承
ブンブンジャーが描いた「自分のハンドルを握る」という力強い個の肯定は、次世代の特撮ヒーロー作品にも継承されうる普遍的なテーマです。たとえブランド名や作品形態が変わろうとも、「自分のハンドルを他人に預けないヒーロー像」は、今後の東映特撮が継承していく重要な軸の一つになっていくはずです。
H2-7. 総括──「自律」という遺産が示すヒーローの未来
『爆上戦隊ブンブンジャー』を多角的に分析して見えてくるのは、本作が「伝統の継承」と「現代的な個の尊重」という、一見相反する要素を高い次元で両立させたという事実です。
プロフェッショナリズムの再定義: 本作は、ヒーローを特殊能力の授与ではなく、自らの技術と意志(屋号)によって自称するプロとして描きました。これは、職業観が多様化する現代の子供たちにとって、現実味のあるロールモデルを提示することに成功しています。
触覚的な体験の価値: デジタルな遊びが増加する中で、スプリングによる瞬間変形というアナログな物理ギミックをコアに据えたことは、実際に「モノに触れ、自分の手で変形させる」という原始的な驚きがいかに強力であるかを再確認させました。
シリーズ継承への健全な土台: ブンブンジャーは、スーパー戦隊シリーズの伝統を尊重しながらも、新しい価値観を提示することで、シリーズの未来への道を切り拓きました。
『爆上戦隊ブンブンジャー』の旅路は、物語の中では宇宙へと広がっていきましたが、彼らが残した「自分のハンドルを握る」という教えは、視聴者の心の中に深く届けられました。どんなに過酷な道であっても、自らがエンジニアとなり、人生をバクアゲるための「道具(アイテム)」をつくり、それを「届ける」ために走り続ける。その不屈のクリエイティビティこそが、令和という新時代を切り拓く真の動力源(エンジン)であることを、本作は1年をかけて証明したのです。

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