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映画『シン・ゴジラ』を1分ごとに読み解く連載シリーズ「ミニッツライナー」。
第1回で取り上げるのは、タイトル表示から東京湾に漂流したプレジャーボートの通報、そして海上保安庁の巡視船「はまなみ」の出動までの1分間です。
まだ緊急事態は発生しておらず、物語は“嵐の前の静けさ”の中で静かに始まります。
しかしその中には、新旧の東宝マークに込められた制作者のメッセージ、1954年の初代ゴジラへのオマージュとリスペクト、そして庵野秀明監督の遊び心が詰め込まれているのです。何気ない1分に凝縮されたそれらの要素を、じっくり一緒に読み解いていきましょう。
ミニッツライナー:0:00〜1:00
2つの東宝マークに込められた想い
映画冒頭に登場するのは、2つの東宝ロゴ。
ひとつは現在使用されているCG調の現代的なロゴ。もうひとつは、1965年から1975年に使用されていた“昭和の東宝マーク”。
この並列表示は極めて異例であり、僕はこの演出に「この作品を、昭和のゴジラを築いた巨匠たち――本多猪四郎監督、円谷英二特技監督、そして敬愛する岡本喜八監督へ捧げる」というメッセージを読み取りました。
証拠はないけれど、観た瞬間に“そうだ”と感じたのです。
そして、この一瞬の演出が、『シン・ゴジラ』という作品が“何と向き合い、何を継承しようとしているか”を、静かに、しかし強く告げているように思えました。
東京湾に漂う1隻のプレジャーボート
映画『シン・ゴジラ』が幕を開けると同時に、観客は一気に東京湾の海上へ投げ込まれます。
1隻のプレジャーボートが漂流しているとの通報を受け、
海上保安庁の巡視艇「はまなみ(PC16)」が現場へ向かう――この静かなシーンが、物語の始まりです。
この段階ではまだ、怪獣も災害も登場しません。しかしこの静寂こそが、すべての“兆し”を孕んでいるのです。
本編へ即突入する異例の構成
そのあと、いきなり本編が始まる構成に驚かされます。
昭和シリーズではテーマ曲と共にスタッフ紹介、平成シリーズではプロローグ → タイトル → クレジットが定番。
しかし本作はそれらをすべて排除。
“観客を冒頭から物語に引き込む”という、思い切った構成です。
航跡から始まる――原点回帰の演出
海面を走る航跡と1954年版の呼応
海面を走る航跡。これは1954年の初代『ゴジラ』と同じ始まり方。
「ゴジラをゼロから再起動する」
という意思表明でしょう。
プレジャーボート「GLORY-MARU」に込められたオマージュ
「羽田沖に漂流中と思われるプレジャーボートを発見」という通報を受け、
巡視艇「はまなみ(PC16)」が現場に急行します。
この「はまなみ」は実在の巡視艇で、第三管区・横浜海上保安本部に所属。
海難救助や密輸阻止を任務とし、武装はなく、前甲板には放水銃を装備。
このリアリティが、フィクションと現実の地続き感を生み出しています。
「GLORY-MARU」の名と庵野監督の趣味
ボートの名前は「GLORY-MARU」。
登録番号は「MJG-15041」。
- 「GLORY」=「栄光」 → 初代『ゴジラ』の「栄光丸(Eiko-Maru)」のオマージュ
- MJG=マイティジャック(庵野監督の好きな特撮作品)
- 150・41=マイティジャック号の全幅150m・全高41m
ちなみに庵野監督の愛猫の名前も「マイティジャック」。
この話は安野モヨコさんのエッセイ漫画『監督不行届』に描かれています。
海上保安官の描写と“リアル”の演出
カメラは記録映像のように静かに描く
「はまなみ」の隊員が「GLORY-MARU」に移乗。
記録映像のようなカメラワークで描かれます。
もしタイトルが伏せられていたら、『海猿』と思う人もいるでしょう。
…しかし、次の1分間で事態は一変します。
今回のまとめ:1分に詰まった“意思”
冒頭から作品のテーマが明確に示される
たった冒頭の1分間。
それでも、作品の意志はビンビンに伝わります。
- 初代『ゴジラ』への深い敬意
- 東宝作品の歴史の継承
- 「怪獣が初めて現れる世界」を描くという再構築
『シン・ゴジラ』は、
“ゴジラがすでに存在する世界”をリセットし、
「人類が初めて怪獣に出会う物語」へと立ち返った作品なのです。
次回予告:静寂は、破られる
“嵐の前の静けさ”はほんのひととき。
次の1分間では、物語が一気に動き出します。
完全新生したゴジラが、どうやって日本に牙をむくのか?
引き続き、注目してご覧ください!
次回もお楽しみに!
参考文献
- 『シン・ゴジラ機密研究読本』(富士見書房)
- 『監督不行届』(安野モヨコ/祥伝社)
次回の記事はこちらから↓↓↓
シン・ゴジラ解説2分目|水蒸気爆発と矢口の初動対応
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